弦 (いと)<高野喜久雄>

いま わたしは願う
わたしはただの弦
ひとすじの切なる弦でありたいと
その両はしが何んであれ
苦しいわたしの何んであれ
ひたすらに 問いも忘れことばも忘れ
きびしく 逆向きの力に耐えて
張られたただの弦
ぎりぎりの力で張られ
ぎりぎりの力で踏み耐える
ぎりぎりの 弦のいのちをいのちとしたいと


そして わたしは わたしをつまびく
きこえるうちは駄目なのだ
未だ駄目なのだ!
最も高い音は 音として
誰の耳にも きこえてこない
あのきこえない高さで 鳴りひびく弦
またその高さに耐える弦
けっして切れず
けっしてひるまず
けっして在るわけ 張られたわけをうたわない弦
あかしはいつも この弦の
この非常な高さからのみやってくる
とおもわれてならない とある夕暮
いなごのような眼をつむる
傷口のような口を閉じ
そしてわたしはいちずにおもう
あの弦だ
人の耳にはただの沈黙
ただの唖としてしか ひびかない弦
あのいのちをこそ いのちとしたいと



                高野喜久雄



どこまでもストイックで求心的な詩。

この厳しさ、この透明感。

テーマ :
ジャンル : 小説・文学

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コメントありがとう

Z.T さん コメントありがとう。
この詩は とても厳しく 鋭いことばで訴えかけてくる 好きな詩です。
高野さんの詩は どれも そういう印象がありますが…

探していました

昔合唱部に体験入部したときに歌った歌でずっと歌詞を探していました。なつかしさとともに歌詞の明瞭さに心が洗われました、ありがとうございました。
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黒猫

Author:黒猫
このブログはHPから詩の部分だけをまとめました。

10代の頃からこれらの詩はいつも自分の中にありました。
私の中にとけ込んだ詩人たちんの言葉と私自身のつたないことばだち。

八木重吉の「秋の瞳」序文ではありませんが、このつたない詩を読んでくれたあなた  私を心の友としてください。

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