亡霊
ひとつになろう ひとつになろう
と どんなにそれを願っても
ひとつになれない 淋しい種子が
思いあまって きつく抱きあい
互いに同じ夢を見た
その夢が果肉の部分
ひとよ
ひとよ
だからもう 薄い果肉と
なじるのは止せ
その夢の味 たたえたあとは
その種子をまた 寄せて埋めよう
枇杷の実<高野喜久雄>
固く抱きあい
ひととき儚い夢を見た私達
賭けに負けた人魚のように
すべてをもぎとられ
めくるめく深い森の中で
「あのひと」の影と私の影が
いつまでも奏で続ける
音楽の森の中で
道に迷い
魂を抜かれた
食べることも忘れ
老いたことも忘れ
麻薬のようでもあり
媚薬のようでもあり
触れることもできぬ孤独な音は
誰もいない森の中で
こだまのように重なりあう
もう変わることのない
過去のやさしさの中
人知れず続く 天上の音楽
それはまるで 終わることのない負債

◆◆◆自作詩一覧へ →Click