喪失

自分が無理をしていたんだな、ということは
無理をするのをやめてしまった時にしかわからないのかもしれない
 
植物状態のからだから生命維持装置を外してしまったあと。
崖から落ちないようにきりきりしながら掴んでいた腕をとうとう放してしまった後。
 
僅かな望みに全てを注ぎ込んでいるうちは、囚われ、
結局のところ「希望」と言う名の牢獄にがんじがらめになっているのに、
最中では決してそのことに気づかないのは何故なんだろう?
 
ううん。「気づいて」はいるんだろう。
いつだって、終わったあとには全てがわかるのだから。
それは突然わかるわけではなくて、最初からそこに「在った」はず。

同じ部屋の暗闇で、ずっと存在していたそいつ(真実)は、
視界の片隅には入っていたはずなのだ。
 

何度やっても懲りないのは何故なのだろう。
こんどこそ、と誓ったはずなのに、何度も何度も。

口当たりの良い夢語り
たやすく流れる一見美しい涙たち
どうしてそんなものを何度も何度も信じるのだろう。
 

夜空を見上げても、もう、あの星たちのどこにも
「人知れず咲いている薔薇」は存在しない。
私が、その物語の嘘と向き合うことになった時に、
この手で幻想の薔薇の花を手折ったのだ。

心の森の中には、からんからんと乾いた音がこだまする。
 

悲しむものか、と思う。
もう無駄な涙など流すものか、と思う。
惜しんだりするものか、と思う。
 


何年も心の部屋の片隅に、意地になって手放さずに置いていた、
あの緑の小箱を、今日ゴミ箱に投げ入れた。 


もう、何の意味のない箱。
浦島太郎の煙すら入っていない箱。
 
私を縛っていたいろんな約束事を
片っ端からゴミ箱に捨てていったあと

かなしいのに 心は妙に軽やかになった。


こんなに、かなしいのに。
 
安っぽい感傷の罠に再び陥るものか、と誓う。
  
後ろを振り返るヒマもなく、新しいもので埋め尽くしていかなくては、と思う。
 

陳腐化し、意味を失い、かなしいほどに卑小に劣化したそれを、私はどう扱えばいいのか。

次々と捨てながら、どうしても最後のひとつに触れることができないでいるけれど、
とりあえずは、いま触れたくないものにまで無理に触れるのはやめようと思う。
 

さあ、少し、おやすみなさい。
ずいぶん自分に嘘をついて、頑張り続けたね。
もうそんなことはすべてやめて、
無理しないていようね。
自分よ。


night.jpg

 






  

 



テーマ : エッセイ
ジャンル : 小説・文学

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黒猫

Author:黒猫
このブログはHPから詩の部分だけをまとめました。

10代の頃からこれらの詩はいつも自分の中にありました。
私の中にとけ込んだ詩人たちんの言葉と私自身のつたないことばだち。

八木重吉の「秋の瞳」序文ではありませんが、このつたない詩を読んでくれたあなた  私を心の友としてください。

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