あなたに <高野喜久雄>

あなたの指
桜貝のような爪をお見せ
そのうなじ
待ちわびた背中をお見せ
真珠のネックレス
巻貝のようなあこがれをお見せ
ひとでのような
やどかりのような焦慮と孤独
白いふたつの砂丘をお見せ
誰もまだ触れないくぼみ
触れなかったふくらはぎ
打ち寄せる波
返す波
身もだえする汀をお見せ
遠い潮鳴り 鳴り止まぬ沖
その胸と その向こう
ずっと向こうまでもお見せ
一度
ただ一度だけお見せ
あなたが海だった証拠
それさえ見れば今度
今度こそはきっぱりと
あなたから立ち去っても見せましょう
あなたから
奪えるものは奪っても見せましょう
ただ ぶくぶくと沈んでも見せましょう
だが そのかわり
あなたもまた見なければいけません
とある夕暮れ
あなたの岸辺に 打ち上げられる一人の溺死者
その胸に しっかりと一尾の
はねる魚を抱きしめている一人の溺死者を
 
 
 
                  詩集 「独楽」 より

 

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ジャンル : 小説・文学

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黒猫

Author:黒猫
このブログはHPから詩の部分だけをまとめました。

10代の頃からこれらの詩はいつも自分の中にありました。
私の中にとけ込んだ詩人たちんの言葉と私自身のつたないことばだち。

八木重吉の「秋の瞳」序文ではありませんが、このつたない詩を読んでくれたあなた  私を心の友としてください。

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