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ビヤホールで 黒田三郎

沈黙と行動の間を
紋白蝶のように
かるがると
美しく
僕はかつて翔んだことがない

黙っておれなくなって
大声でわめく
すると何かが僕の尻尾を手荒く引き据える
黙っていれば
黙っていればよかったのだと

何をしても無駄だと
白々しく黙り込む
すると何かが乱暴に僕の足を踏みつける
黙っている奴があるか
一歩でも二歩でも前に出ればよかったのだと

夕方のビヤホールはいっぱいのひとである
誰もが口々に勝手な熱をあげている
そのなかでひとり
ジョッキを傾ける僕の耳には
だが何ひとつことばらしいものはきこえない

たとえ僕が何かを言っても
たとえ僕が何かを言わなくても
それはここでは同じこと
見知らないひとの間で安らかに
一杯のビールを飲む淋しいひととき

僕はたた無心にビールを飲み
都会の群衆の頭上を翔ぶ
一匹の紋白蝶を目に描く
彼女の目にうつる
はるかな菜の花畑のひろがりを

      黒田三郎詩集『ある日ある時』より
     (昭森社刊『定本 黒田三郎詩集』参照)

テーマ :
ジャンル : 小説・文学

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黒猫

Author:黒猫
このブログはHPから詩の部分だけをまとめました。

10代の頃からこれらの詩はいつも自分の中にありました。
私の中にとけ込んだ詩人たちんの言葉と私自身のつたないことばだち。

八木重吉の「秋の瞳」序文ではありませんが、このつたない詩を読んでくれたあなた  私を心の友としてください。

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