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あけがたにくる人よ<永瀬清子>


   あけがたにくる人よ
   ててっぽっぽうの声のする方から
   私の所へしずかにしずかにくる人よ
   一生の山坂は蒼くたとえようもなくきびしく
   わたしはいま老いてしまって
   ほかの年よりと同じに
   若かった日のことを千万遍恋うている

   その時私は家出しようとして
   小さなバスケット一つをさげて
   足は宙にふるえていた
   どこへいくとも自分でわからず
   恋している自分の心だけがたよりで
   若さ、それは苦しさだった

   その時あなたが来てくれればよかったのに
   その時あなたは来てくれなかった
   どんなに待っているか
   道べりの柳の木に云えばよかったのか
   吹く風の小さな渦に頼めばよかったのか

   あなたの耳はあまりに遠く
   茜色の向うで汽車が汽笛をあげるように
   通りすぎていってしまった

   もう過ぎてしまった
   いま来てもつぐなえぬ
   一生は過ぎてしまったのに
   あけがたにくる人よ
   ててっぽっぽうの声のする方から
   私の方へしずかにしずかにくる人よ
   足音もなくて何しにくる人よ
   涙流させにだけくる人よ




あけがたにくる人よ (思潮ライブラリー 名著名詩選)あけがたにくる人よ (思潮ライブラリー 名著名詩選)
(2008/06)
永瀬 清子

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亡霊

あなたは消えた
わたしは消えた
あなたの心のなかのわたし
わたしの心のなかのあなた
森には誰もいない
視界をよぎるのはあれは心が生み出した幻の残像


もう 風も吹かぬ
誰も知らない誰も訪れぬ 
黒い黒い深い森で
古代の壁画のように遺された文字は
もう何も語らない
森には誰もいない


たくさんいた小鳥たちの
最後の一羽が死んで
訪れるものももういない
ときおり 古(いにしへ)の夢が残したやまびこが
風と共に こだまするだけ




永遠に取り戻せぬ
失った未来



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Autumnl 2014


テーマ : 自作詩
ジャンル : 小説・文学

白昼夢

意思を持って強く念じれば 
夢も本当になる
と信じた私と
夢は夢として 誰にも邪魔されず 
ただ  夢見続けたかっただけの
アノヒトと



アノヒトの夢に 私の夢がある日迷い込んだ
一緒に夢を見た
きつく抱き合った
誓い合った
だけどアノヒトだけが 生き残った
最初から自分は死ぬ気のなかった
心中の片割れとして


夏の昼下がりの陽炎のような
美しい言葉と
ありふれた悲喜劇


真っ暗な 棺のような
音の無い森で
目覚めた私
  






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Autumnl 2014


テーマ : 自作詩
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プロフィール

黒猫

Author:黒猫
このブログはHPから詩の部分だけをまとめました。

10代の頃からこれらの詩はいつも自分の中にありました。
私の中にとけ込んだ詩人たちんの言葉と私自身のつたないことばだち。

八木重吉の「秋の瞳」序文ではありませんが、このつたない詩を読んでくれたあなた  私を心の友としてください。

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