一人づつが眼をあかないで、何の全体。
おれは下からゆく
80歳の不治の病の母を見舞う。
小さく別人のようになった母。
ずっと母とは宿敵みたいだったけども
死にゆく者は皆、仏になる。
母は田舎の人で、そういう死生観を持っていた。
死ぬほど苦しめられて憎みあった姑の事すら
死の前には恨みを棄てて世話をしていた。
父が、ハイエナみたいな親族に腹を立てて、
「こんなものがあるから、いけない」と怒って
祖母の位牌をゴミ箱に投げ込んだ事があったが
母は、「仏様にそんな事をしてはいけない」と拾い上げた。
訪問販売のセールスマンにすら礼儀正しくお断りをしていた母。
「ともちゃん、自分のお父さんがそういう仕事で、相手にけんもほろろに追い返されるところを想像しなさい」と言って。
「どんなに前の日に喧嘩してても、朝、家を出る時には 気持ちよく送り出してあげなさい。それきり事故で死んでしまったら、喧嘩別れが今生の最後になってしまうのは良くない」と教育された。
(娘には随分ひどい言葉を投げつけては傷つけてきたくせに)
そういうところのある人間だった事を思い出す。
自分の根幹にも、どこか引き継がれている気がした。
次の正月がない気がする、母。
【追記】
2014.7.21 没。
合掌。