刻印
なぜ 今さら私は泣くのだ
心に刻まれた刻印
一度彫ったら 一生消せぬ刺青のように
ヒリヒリする空虚な言葉
まるで醜い傷跡のような。
「バッハは自分のための音楽だ」
そう言った
「モルゲン(※)」が好きだと言った
あの涙のでるほど美しい旋律を
私は
私の傷痕を燃やし尽くさねばならぬ
誰にも知らせることなく
わたしは、あの物語の「おさかな」だ
夢の中で誰かが私に逢いに来ると云ったから
待ってしまったけれど
とうとう待つのをやめて
泳ぎ去った、あのおさかな
あの部屋は 空っぽの海
片付けず 鍵もかけず
サンダルばきで出掛けたまま
帰らぬ主 それが私
さよならという言葉すら置き去りに
私は ただ
パタンと本を閉じた
分厚い本を
開けたままの窓から時折吹く風が
ページをめくるけれど
もう どこまで読んだのか
物語が終わったのかすら
誰にもわからない
もうすぐ 痛みの秋が来る

(※)モルゲン
リヒャルト・シュトラウスの歌曲
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心に刻まれた刻印
一度彫ったら 一生消せぬ刺青のように
ヒリヒリする空虚な言葉
まるで醜い傷跡のような。
「バッハは自分のための音楽だ」
そう言った
「モルゲン(※)」が好きだと言った
あの涙のでるほど美しい旋律を
私は
私の傷痕を燃やし尽くさねばならぬ
誰にも知らせることなく
わたしは、あの物語の「おさかな」だ
夢の中で誰かが私に逢いに来ると云ったから
待ってしまったけれど
とうとう待つのをやめて
泳ぎ去った、あのおさかな
あの部屋は 空っぽの海
片付けず 鍵もかけず
サンダルばきで出掛けたまま
帰らぬ主 それが私
さよならという言葉すら置き去りに
私は ただ
パタンと本を閉じた
分厚い本を
開けたままの窓から時折吹く風が
ページをめくるけれど
もう どこまで読んだのか
物語が終わったのかすら
誰にもわからない
もうすぐ 痛みの秋が来る

(※)モルゲン
リヒャルト・シュトラウスの歌曲
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