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自作詩 <目 次>

110  辛夷
    ひっそりと/体中に 白い胡蝶をまとって/ …
109  椿
    椿の木が燃える/地面も燃える/ …
108  life is
    Amazonフォトが/「去年のこの日」/と言って死んだ猫の写真を出してくる/ …
107  冬の黄昏
    夕暮れ時/買い物帰りに見上げた西の空/
   裸木のレースに透けて見える金の雲/ …

106  オオカミ少女
    「私が死んでみせた時だけ/
   私の遺した言葉は誰かに受け取ってもらえる/ …

105  もつれた糸
    こんがらがった糸/ ほぐせない糸/ …
104  夏至
    「夏至」は一番さみしい日だ。/胸の奥がちりりと痛む/ …103  花束
    春の庭の花に胸をときめかせながら/ 花束を作った/ …
102  募金箱
   胸に 鉛のかたまり/ 私を押しつぶそうと…
101  残像
    あなたは消えた/わたしは消えた/ あなたの心のなかのわたし…
100  白昼夢
    意思を持って強く念じれば/ 夢も真(まこと)になる…

99  Starless
    誰もいない/なにもかも 寂しい…
98  約束
    約束があるから/日々を生きている…
97  コトバなど
    言葉は私と誰かを繋がない。/言葉はひとと私を隔てる…
96  さくら
    今日もまた/部屋に満ちる/薄めた鉛のような時間…
95  ひとり。
    古びた写真の中の笑顔/私はもうそこには居ない…
94  Happy Birthday
    求め続ける心を/隠しながら…
93  亡霊
    固く抱きあい/ひととき儚い夢を見た私達…
92  止まらぬ音
     かたちあるものならば/手で触れ/鍵をかけて…
91  刻印
   なぜ 今さら私は泣くのだ/心に刻まれた刻印…
90  
    話していた時は気にも止めなかった言葉が/ずっとあとで…
89  蜘蛛の巣
    無造作に壊される/緻密に張られた蜘蛛の巣…
88  よたか
    消えかかった蝋燭の、弱々しい炎。/あるいは、…
87  憧憬
    静かに頭のなかに響く音に耐える/1耳をふさいでも塞いでも…
86  貝殻
    100度書いて/100度消す…
85  私の棺に
    3月に死んだら棺に沈丁花を/…
84  ゆふぐれ
    秋は その空気に/すでに 冬を孕む/…
83  
    伝えたかったものは/何だったのか/…
82  
    秋のよく晴れた朝/冬に向かう太陽/夏に向かう太陽…
81  
    滅びの前の美しすぎる1日の輝きが/宝石のように胸を締めつける/…
80  暗闇
    薄明かりの中/離れてベットに横になると/…
79  呪い
     行かないで/私の手を離さないで/…
78  
   私は あなたに呪いをかけた/あなたの心がどこにも行けないように
77  fiction
    みてくれほどに あたたかいわけではない/…
76  音楽
    あなたは求めてやまぬ神/…
75  霙(みぞれ)
    雪になりきれぬ/ゆめの残り香…
74  甘美な毒
    愛は/自分が自分にかける呪い/…
73  一寸の虫にも
    老猫とみつめあう/たましいと たましいが…
72  
    あの夜/激しい雪の向こうに立っていたのは/…
71  9月
    美しい秋が来る/…
70  黄泉坂
    刻々と日々が過ぎてゆく/目眩がするような/…
69  蜻蛉
    たしかに/それは…
68  言霊
    その心の狂おしい動きに/軽々しく名前をつけるな…
67  かげろうの卵
    ことば以前のなにか/ことばにした瞬間に…
66  風葬
    信じていたものすべてが/汚れきってしまったとき…
65  チェロ
    チェロはね 中身が空洞だから/きれいに響くんだよ…
64  無力な音
    寂しいから 弾く/弾くと 寂しくなる…
63  ねこになりたい
    猫になりたい/鳥になりたい…
62  春宵
    薄闇の中 /ほの白く浮き上がる満開の桜の下を…
61  弾く
     弾けば/千の針が心に刺さる…
60  暮れゆく春の庭で
    知っていた/それが 嘘でも 輝いていた…

58  かなしみ
   薄いグラス一杯に張られた水の表面だ/…
57  プロメテウスの火
    歌うたび/喪ったものにえぐられる…
56  月を追われた兎
    月には かつて兎がいた/いまは もう いない…
55  私の想いを
    私の想いを/一匹の猫にたとえたら…
54  空っぽの椅子と
  (2011)
53   ひっそりと/私の「現実(うつつ)」の中には いつも…
  宝箱
    何を守ろうとしている? /「宝箱よ」…
52  音楽
     眠れぬ日々の夢とうつつに/目眩の中で弾くBACH…
51  恋は
    恋は/ さながら悪い夢…

50  秋の別れ
    秋が来るたびに私は哭くだろう/…
49  渇く
    まるで海水のように/飲めば飲むほど…
48  からだとこころ
    からだを通して/愛は執着にかわり…
47  残酷なけもの
    アクセルとブレーキを同時に踏み続ける/…
46  あなたが求めるものが
    あなたが求めるものが 美しい花ならば/わたしは花になろう…
45  岩を抱きて
    文字にはできぬ/岩のような想い…
44  深海魚
    すべての扉を閉じて/静かに…
43  あおおに。
    「泣いた赤鬼」の中の「青鬼」のように/…
42  森の中で
    深い森の中で/迷子になって 泣いている子供…
41  こころは
    こころは/見えない檻のなかに…
40  孵らぬ卵
    昔飼っていたインコを思い出す/…
39  夜の海
    心は しばしば/私の予想を裏切る…
38  猫は
    なにも定義しない/ただ ただ…
37  わたしは  
    わたしは一冊の本/わたしは一遍の音楽…
36    
    わたしの弦と/共鳴しあう弦を持った…
35  逃げ水
    自分の中にどこまでも広がる暗闇に/ただ音楽だけが…
34  私がほしいものは (2010)
    私がほしいものは/…
33  春の夜のひとりごと (2010)
    あなたの幸せで心に灯がともること/…
32   (2010)→★改訂 2011/4
    私は 私の森の中に隠れる /…
31  かけら (2010)
    扉は閉まる/鼻先で…
30  冬はいつも     (2010)
    冬はいつも/誰かに…
29  石になれ (2010)
    誰にも接続せず/…
28  ムジカ       (2010)
    寝ても覚めても/頭の中を占拠している…
27  考える        (2007)
    私はなにに希望をつないでいる?/…
26  喪失        (2007)
    人、とだろうが/猫、とだろうが…
25  不思議な石臼    (2004)
    私の心は/停まらなくなった石臼…
24  虚空        (2003)
    私の心は 中空でとまったまま/…
23  意味        (2003)
    私が知りたかったのは「意味」/…
22  失われてゆくもの  (2001)
    失われてゆくもの/それは/鏡の中の私…
21  冬枯れ       (2001)
    孤独は/静かに 心をむしばんでゆく…
20  わたしの中に  
    いろいろなことのあった 十九のわたし/…
19  抱擁  
    それはいつも転落をさそう 甘美な罠…
18  きんもくせい   (Aged 30)
    ああ/そうか/この 香り…
17  無題       (Aged 29)
    桜の花 や 梅の香 /くちなしや 沈丁花…
16  恋        (Aged 29)
    人生 という/長い夢の中で…
15  魚─別れるひとに─    (Aged 27)
    私の猫はいつも暗い方をみつめている/…
14  月と魚──恋しいひとに─ (Aged 27)
    わたしは 深い夜の海に棲む魚/…
13              (Aged 24)
    朝一番に/ブリキの洗面器に張った水のような…
12  無題~カタツムリ     (Aged 22)
    聞きたくもないのに 一方的に/…
11  ガラス玉         (Aged 22)
    まるい ガラス玉はうつくしい/完全で…
10       (Aged 20)
    それなのに あなたは/コトバを手放そうとはしなかった…
9  扉     (Aged 19)
    おそるおそる/そちらを向いてみる…
8  別れ    (Aged 19)
    日が暮れて/鳥が飛んで…
7       (Aged 17)
    扉をあけると/そこは 雑踏…
6       (Aged 17)
    海は 風と一緒になりたくて/荒れ狂う…
5  夕暮    (Aged 17)
    からだの中に うずまく/ことばたち…
4  薄暮    (Aged 16)
    何も云ってくれないから/わたしは いつも おきざり

3  無題    (Aged 16)
    なにも見ない眼と/なにも云わない口と…
2  無題    (Aged 16)
    心よ凍てつけ/こおってしまえ…
1  黄昏   (Aged 15)
    夕暮れ時/いつのまにか一羽の鳥になって…

  


  

テーマ :
ジャンル : 小説・文学

辛夷


ひっそりと
体中に 白い胡蝶をまとって
雪のように佇む辛夷の樹


ひとは 梅を愛で
桜を心待ちにし
その挟間
訪れる人もまばらな
林の奥で


ひそやかに
香りの息を吐きながら
ただ
そこに在る
静けさ
 
 


<辛夷

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(2022)

テーマ : 詩・ことば
ジャンル : 小説・文学

椿

椿の木が燃える
地面も燃える


春の柔らかい日差しの中で
そこだけがくっきりと
まるで
ひとつの情念のように



ツバキ



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テーマ : 詩・ことば
ジャンル : 小説・文学

life is

Amazonフォトが
「去年のこの日」
と言って死んだ猫の写真を出してくる
切なくも懐かしい
胸の痛くなる風景


時は過ぎてゆく

全ての生ける物の宿命
映画にも大河ドラマにも
長編小説にもエンディングがあるように
必ず来る 「fin」 の文字

LIFE とは まさに
われわれの「持ち時間」


砂時計のように あるいは
蝋燭の灯のように
不可逆的に
消費されゆくもの
今、この瞬間にも


止まった時計
だんだん遠くなる景色
愛しいものたちとの終わった時間
いつか終わる私の時間
残り時間を刻む心臓の鼓動





くろ20201031


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テーマ : 詩・ことば
ジャンル : 小説・文学

冬の黄昏

夕暮れ時
買い物帰りに見上げた西の空

裸木のレースに透けて見える金の雲
夕焼けに憑かれ
遠回りしてのぼる坂道


空いっぱいに広がる黄金色の光
胸が高鳴る
冬だけの絶景


私にとって何より大切なもの







202201192337071b3.jpg

テーマ : 詩・想
ジャンル : 小説・文学

オオカミ少女


  「私が死んでみせた時だけ
   私の遺した言葉は誰かに受け取ってもらえる
   命を懸けない限り 誰にも何も届かない」


そう漠然と思い詰めたのが中学生の頃
なんでそう悟ったのかは覚えていない。
ある種の絶望だったのか
それとも諦めだったのか


死ぬほどの苦しみであっても
死んで見せるまではそれは無いも同じ
オオカミ少女か
同情を求める「狂言」に過ぎぬ
まことに死なない限り

だから わたしは見せない
誰も信じない

わたしの言葉よ届け
わたしの消えた後に 誰かに届け
悲鳴のような叫びを押し殺して。


裸木1




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テーマ :
ジャンル : 小説・文学

もつれた糸

こんがらがった糸
ほぐせない糸


濁流のあとも
流れ去らずに
心の底に沈む美しいものたち



引き出しの中にいつまでもある
ほぐせなかった糸

 (いつか ほぐせるかもしれない
 死ぬまでチャンスはある)



引き出しの中にしまわれた
いくつかの
捨てることの出来ぬ
古びたもつれ糸



いつか私が消滅したら
その糸たちを
私の棺にいれず
海にそっと流してほしい



遠くの美しい島に
流れつくように


あるいは
魚たちが 喰らい
波しぶきのひとつに溶けて消えるように

 
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海202010


心のなかにある光と影
暗闇は だけど いつか 消えてゆく

死ぬまで誰かを恨み続ける根性があったら それはそれですごいと思う
 
私は根性なしだから 負の感情を継続できない

テーマ :
ジャンル : 小説・文学

夏至

「夏至」は一番さみしい日だ。
胸の奥がちりりと痛む
死に向かう転換点のような
切ない日。


盛夏に向かおうとする
無垢な心と
冷たく衰退してゆく太陽
あとはただ
夜に浸食されてゆくだけ。

知らぬうちに
すこしずつ喪われゆくかがやき。
まだ大丈夫
とたかをくくっているうちに
消えゆく何か。


夏至の太陽。
さよなら。
さよなら。
私の人生


いまから用意しておくさようならのことば





(2017)

 
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テーマ : 詩・ことば
ジャンル : 小説・文学

花束

春の庭の花に胸をときめかせながら
花束を作った
逢うことのない あのひとに向けて


あのひとは
なぜ 摘むのかと いぶかしがる
「庭で咲かせておけばよいのに・・・・」


美しさを
ひとつの花束に凝縮して
あのひとに 伝えたい
ことばにならない私の想い


在るだけで美しいもので充分なら
音楽家も作曲家も画家もいらぬ
鳥の声や 風の音
ただ 皆 あるがままに聴けばいい
完全無比な神の芸術


それは
在るがまま では満たされぬものの所業
不完全な存在の業



私は 花を摘む
ただ「在る」だけでいられぬから

今日も花束をつくる
誰かに伝えねばいられぬから



春の庭2015






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テーマ : 自作詩
ジャンル : 小説・文学

募金箱

 
胸に 鉛のかたまり
私を押しつぶそうと
常にのしかかる
重苦しいなにか
 

声にならない叫びに
胸が焼け付き
息もできぬ
 

   
   自分の命が重荷になり
   「募金箱」を探してみたが
   あいにくと 
   そんなものは 見つからぬ
 

 
捨てるに忍びず
今日もありもしせぬ「募金箱」を探し
さまよう


募金箱

テーマ : 自作詩
ジャンル : 小説・文学

残像

あなたは消えた
わたしは消えた
あなたの心のなかのわたし
わたしの心のなかのあなた
森には誰もいない
視界をよぎるのはあれは心が生み出した幻の残像


もう風も吹かぬ
誰も知らない誰も訪れぬ 
黒い黒い深い森で
古代の壁画のように遺された文字は
もう何も語らない
森には誰もいない


たくさんいた小鳥たちの
最後の一羽が死んで
訪れるものももういない
ときおり 古(いにしへ)の夢が残したやまびこが
風と共に こだまするだけ




永遠に取り戻せぬ
失った未来


いや
未来だと信じていた
ただのたわごと?








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Autumnl 2014


テーマ : 自作詩
ジャンル : 小説・文学

白昼夢

意思を持って強く念じれば 
夢も真(まこと)になると信じた私と
誰にも邪魔されず 
ただ 夢見を続けたかっただけの
アノヒトと


アノヒトの夢に 
ある日私の夢が迷い込んだ
一緒に夢を見た
きつく抱き合った
誓い合った
だけどアノヒトだけが生き残った
はなから死ぬ気のなかった心中の片割れとして


夏の昼下がりの陽炎のような
美しい言葉と
ありふれた悲喜劇


真っ暗な棺のような
音の無い森で
目覚めた私


まばたくことも
身動きすることもできず











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Autumnl 2014


テーマ : 自作詩
ジャンル : 小説・文学

Starless

誰もいない
なにもかも 寂しい
ひとりきりだ
誰もいない
ひとりきりでいつまでもバッハを弾く
早く帰りたい
(どこへ)


八方ふさがり
壁の向こうに広がる虚空
星も輝かぬ黒い宇宙だ
早く終わらせたい
さよなら
さよなら
さよなら、自分
さよなら あなた
さよなら 世界
 
たまりつづける音にならぬ さよなら

黙々と弾き続ける








(2014)


テーマ : 自作詩
ジャンル : 小説・文学

約束

約束があるから
日々を生きている
色んな人との約束
約束を果たさなければいけなくて
そこまでは歩く
 

約束がひとつもなくなれば「解放」
あるいは 約束を守らないことにすれば。


でも約束は私を縛り
次の約束まで歩かせる


それが 唯一の
いま、私を生かすもの









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April 2014

テーマ : 自作詩
ジャンル : 小説・文学

コトバなど


コトバは私と誰かを繋がない。
コトバはひとと私を隔てる役にしかたたない。
コトバは方程式ではなく不完全な道具だ。
コトバは
人と人とを遠ざける誤解のかたまり。
間違えて 傷つけるばかりで
ひとつも心を伝えてくれない

もう私は黙っていよう。
詩の言葉だけにしよう
もう猫のように言葉なく生きよう

コトバ コソ ガ ショアク ノ コンゲン

何もかも棄てたくて
猫と樹々を眺め、深呼吸する



桜と猫
桜と猫 posted by (C)Guillaume





(2014)



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April 2014

テーマ : 自作詩
ジャンル : 小説・文学

さくら

今日もまた
部屋に満ちる
薄めた鉛のような時間


私の椅子はたぶん
あの世のさくらの樹の下に
どこまでも白い桜の闇のなか
ぽつんと置かれているのだ


うつし世に所在なく 
立ち尽く私の上に


はらはらと
花びらの雪が舞う

悲しみだけ積もってゆく








桜



hanabira









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テーマ : 自作詩
ジャンル : 小説・文学

Happy Birthday

求め続ける心を
隠しながら
また、この日を迎えました。
 

待ち人、来たらず。
マダム・バタフライは
皆に憐れまれ、笑われても
幸福だったのでしょうか


待っているうちに何を待っていたかも忘れ、
待っているつもりはもうなくなってしまったのに
なんでだかその場所に座っている



わたしは あなたの言葉を受け取るだけのために、
遠い空に舞う風です


雲


   
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テーマ : 自作詩
ジャンル : 小説・文学

ひとり。

古びた写真の中の笑顔

私はもうそこには居ない

天女の羽衣のような朱鷺色の雲

煙のように私は

空へ上ってゆけるのかどうか





やがて暮れた凍える夜

満天の星空を見上げ

自分のための星が何処にあるのかも分からないまま

立ちすくむ





星空の中で 迷子になる





朱鷺色




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テーマ : 自作詩
ジャンル : 小説・文学

亡霊


     ひとつになろう ひとつになろう 
     と どんなにそれを願っても
     ひとつになれない 淋しい種子が
     思いあまって きつく抱きあい
     互いに同じ夢を見た
     その夢が果肉の部分
     ひとよ
     ひとよ
     だからもう 薄い果肉と
     なじるのは止せ
     その夢の味 たたえたあとは
     その種子をまた 寄せて埋めよう

        枇杷の実<高野喜久雄>



固く抱きあい
ひととき儚い夢を見た私達

賭けに負けた人魚のように
すべてをもぎとられ

めくるめく深い森の中で 
「あのひと」の影と私の影が
いつまでも奏で続ける
音楽の森の中で 
道に迷い
魂を抜かれた

食べることも忘れ
老いたことも忘れ

麻薬のようでもあり
媚薬のようでもあり
触れることもできぬ孤独な音は
誰もいない森の中で 
こだまのように重なりあう
  
もう変わることのない
過去のやさしさの中
人知れず続く 天上の音楽

それはまるで 終わることのない負債






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テーマ : 自作詩
ジャンル : 小説・文学

止まらぬ音

かたちあるものならば
手で触れ
鍵をかけて閉じ込めることもできようが


眩暈のような絶望感
ちりちりと焦げるような渇き
拠り所のない身もだえ
どこまでも
どこまでも
虚空に腕を伸ばし続け。



見えたと思えば 幻
真夏の陽炎
あるいは
するりと消える逃げ水
触れることすら出来ぬ切なさ
虚空に耳を凝らし
心のようにとらえどころがない、
だけど希求して止まぬ何か。

  聖なる美しいもの。

千の針に貫かれた私の身体の中から
出たがっているこの歌
私のものにしたい音楽
私のものにはならぬ音楽


想いは何度遠ざけても
眩暈のするようなその中心に向かって
らせん状に落下してゆくのです
私の意識に君臨し続ける
あの音楽


この音を誰か止めてくれるなら
わたしの声を差し上げる








燃える夕景



   
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テーマ : 自作詩
ジャンル : 小説・文学

刻印

なぜ 今さら私は泣くのだ
心に刻まれた刻印
一度彫ったら 一生消せぬ刺青のように
ヒリヒリする空虚な言葉
まるで醜い傷跡のような。

「バッハは自分のための音楽だ」
そう言った
「モルゲン(※)」が好きだと言った
あの涙のでるほど美しい旋律を

私は
私の傷痕を燃やし尽くさねばならぬ
誰にも知らせることなく

わたしは、あの物語の「おさかな」だ
夢の中で誰かが私に逢いに来ると云ったから
待ってしまったけれど
とうとう待つのをやめて
泳ぎ去った、あのおさかな

あの部屋は 空っぽの海
片付けず 鍵もかけず
サンダルばきで出掛けたまま
帰らぬ主 それが私

さよならという言葉すら置き去りに
私は ただ
パタンと本を閉じた
分厚い本を

開けたままの窓から時折吹く風が
ページをめくるけれど
もう どこまで読んだのか
物語が終わったのかすら
誰にもわからない

もうすぐ 痛みの秋が来る




1269477_543736012358245_1458157696_o.jpg

(※)モルゲン
リヒャルト・シュトラウスの歌曲

   
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テーマ : 自作詩
ジャンル : 小説・文学

そのときはまるで気にとまらなかったのに

ずっとあとで

心のあちこちにひっかかった棘の痛さに

大泣きしてしまう

波打ち際で波が退いた後に残る

尖った貝殻みたく 

いつの間にやら突き刺り

私を傷めつける棘

  




何本もの棘

 

喪ったものを 思い知らせる 棘たち
 









   
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テーマ : 自作詩
ジャンル : 小説・文学

蜘蛛の巣

無造作に壊される
緻密に張られた蜘蛛の巣
ひとふりで払いのけられる脆い存在。

渾身の力で
身を削って吐き出した糸で編まれた作品が
いとも簡単に。

だけど かまわず
彼はまた営々と作り直すだろう

ひとのように悲しむこともせず
黙々と
ただちにまた
「現実」を綴り始めるだろう

彼の世界
彼の棲家
彼の日常。

何度払われても
何度否定されても
その意味など考えず。


いつか主の消えた巣だけが残される日まで






(2013年7月)





テーマ : 自作詩
ジャンル : 小説・文学

逝く

消えかかった蝋燭の、弱々しい炎。
あるいは、
ひと揺れで落下しそうな
線香花火の小さな火の玉。
  

触れてはだめ。
触れたらきっと消えてしまう。

  
大事に大事に
揺らさないように そっとかかげて
掌で守る。
これ以上汚れないように。
これ以上歪まないように。


わたしは言葉を手放す。
言葉は
流れ出る 血。
深い深い喪失感にもだえながら 
その貧血感に目眩しながら
言葉にしがみつく指を振り払え
血にまみれた着衣を
するりと脱ぎ捨てよ
  
 
横顔 後ろ姿
残り香だけの私に
ついには影(音楽)だけになれ。
遺骨も
遺髪も手にせず


言葉を棄て
美しく官能的な
あの音楽にひとり抱かれながら
私は逝こう
 

よたかのように
私は消えてゆこう
あの黒い宇宙の闇へ
 




月と金星と木星

 

   
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  ------- Feb 2013


テーマ : 自作詩
ジャンル : 小説・文学

憧憬

静かに頭のなかに響く音に耐える
 
耳をふさいでも塞いでも
それは鳴り続ける

美しい音
官能的な音  


誰もいない暗闇で
この音と添い遂げることが
私に許された唯一なのだろうか
 


いいえ もう
いっそ
この音を消し去りたい
私の心を囚える この悩ましい音を
  

決して手に入ることのない
この音を
 
   
狂おしいほど愛しい この音を


   ナカヌナラコロシテシマヘホトトギス

そうできたらどんなによいか








   
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 雪

  
  ------- Feb 2013




テーマ : 自作詩
ジャンル : 小説・文学

貝殻

100度書いて
100度消す
伝えずにいられぬもの
 

文字ではない
言葉でもない
   

波打ち際で 
何度 砂をかぶれども
流されぬ美しい貝殻のように
心に留まるもの
  

 
からっぽの部屋で
目を閉じて
痛みに耐え続け
耐え切れずに
楽器が歌い出す
   


   
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海
 
  
  ------- Jan 2013


   

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私の棺に

3月に死んだら沈丁花
6月に死んだらクチナシを
10月に死んだら金木犀を入れてください
 
1月に死んだら雪うさぎ
あの降りしきる雪の夜に観た
鬼の顔を忘れたい
  

2月なら紅梅を一枝
4月は、あなたの名残の花桃を棺いっぱいに
  
7月に死んだら 濃い影を
  
あなたと夢を重ねた
あの8月に死んだら
熾火の灰を一握り
あの音楽を奏でてください
  
あなたを失った11月に死んだなら
あのモミジバフウの紅と
イチョウの葉を敷き詰めて
   
  
そしてどうぞ
最後に
空っぽのあの緑の箱を
もう思い出すら入っていない
あの箱を入れてください



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モミジバフウ



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ゆふぐれ

秋は その空気に 
すでに 冬を孕む
生が予め 死を孕むかの如く 
  

あこがれと
さみしさと
かなしみと
痛みの一杯に詰まった胸の中が
こぼれないように
そっと大事に抱えて
他人だらけの満員電車に乗る
  

やがて暮れては
凍りつく藍色の夜空に
冷たく輝くのはオリオン座
 
わたしは
この胸を抱えて
どこまで乗ってゆこう
 


夕景



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----Nov 2012



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伝えたかったものは
何だったのか
あなたに 伝わったものは
伝えたかったものだったのか


何も映さぬ鏡に 毎日 問いかける
 
    「あなたは どこ?」
 
あなたが受け取ったのは
なんだったのか
いや そもそも受け取ったのか
わたしは 
なにを 投げつけたのか

曇った鏡に 問いかける

   「わたしは どこ?」
 

ああ もう 日が暮れる
鏡に 夕焼けだけを映して



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----Oct,29 2012

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深海魚Ⅱ

憎しみは水を濁らせ
哀しみがそれを澄ます

さあ 私よ
私は あの
古い棲処にもどるのだ
深い海の底へ
 

そして 待つのだ
涙が枯れたのちの
ふたたび 水面に映るはずの
あの 美しい月を

 

 

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----Oct,29 2012

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プロフィール

黒猫

Author:黒猫
このブログはHPから詩の部分だけをまとめました。

10代の頃からこれらの詩はいつも自分の中にありました。
私の中にとけ込んだ詩人たちんの言葉と私自身のつたないことばだち。

八木重吉の「秋の瞳」序文ではありませんが、このつたない詩を読んでくれたあなた  私を心の友としてください。

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