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若さ かなしさ<永瀬清子>



東京の小さい宿に私がいた時
あの人は電話をかけてきて下さった
あの人は病気で私に会いに来れないので
それで電話で話したかったのだ


かわいそうにあの人はもう立てない病気
それでどんなにか私に会いたかったのだ
こんどはどうしても会えないよと
とても悲しそうに彼は云った


あの人は私よりずっと年上だし
学識のあるちゃんとした物判りのいい紳士
そんなに悲しい筈はないと若い私は思っていたのだ


過ぎゆく人間の悲しさを
私はまだ思いもせずに
長く長く電話で話す彼に当惑さえしていた
そして片手の鉛筆で
何か線や波形を描いていた


枯葉のように人間は過ぎていく
その時瀕死の力をこめて私を呼んでいたのに
そして波のように私にぶつかりなぐさめられたかったのに―――
「人間ってそんなものよ」「病気ってそんなものよ」


私はああ、恐ろしいほどのつめたさ
若さ、思いやりのなさ
そそり立つ岩さながら―――

私を遠くからいつも見つめていたそのさびしい瞳に
それきりおお  私は二度と会うことはなかったのだ





あけがたにくる人よ (思潮ライブラリー 名著名詩選)あけがたにくる人よ (思潮ライブラリー 名著名詩選)
(2008/06)
永瀬 清子

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詩集を開いたときに 飛び込んできたこの詩。
ああ私もどれだけ年を取ってきて、この苦い思いを噛みしめていることか。

若さとは、傲慢さ、思い上がり、他者への思いやりのなさ。



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あけがたにくる人よ<永瀬清子>


   あけがたにくる人よ
   ててっぽっぽうの声のする方から
   私の所へしずかにしずかにくる人よ
   一生の山坂は蒼くたとえようもなくきびしく
   わたしはいま老いてしまって
   ほかの年よりと同じに
   若かった日のことを千万遍恋うている

   その時私は家出しようとして
   小さなバスケット一つをさげて
   足は宙にふるえていた
   どこへいくとも自分でわからず
   恋している自分の心だけがたよりで
   若さ、それは苦しさだった

   その時あなたが来てくれればよかったのに
   その時あなたは来てくれなかった
   どんなに待っているか
   道べりの柳の木に云えばよかったのか
   吹く風の小さな渦に頼めばよかったのか

   あなたの耳はあまりに遠く
   茜色の向うで汽車が汽笛をあげるように
   通りすぎていってしまった

   もう過ぎてしまった
   いま来てもつぐなえぬ
   一生は過ぎてしまったのに
   あけがたにくる人よ
   ててっぽっぽうの声のする方から
   私の方へしずかにしずかにくる人よ
   足音もなくて何しにくる人よ
   涙流させにだけくる人よ




あけがたにくる人よ (思潮ライブラリー 名著名詩選)あけがたにくる人よ (思潮ライブラリー 名著名詩選)
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だまして下さい言葉やさしく<永瀬清子>



だまして下さい言葉やさしく
よろこばせて下さいあたたかい声で。
世慣れぬわたしの心いれをも
受けて下さい、ほめて下さい。
あああなたには誰よりもわたしが要ると
感謝のほほえみでだまして下さい。


その時わたしは
思いあがつて傲慢になるでしようか
いえいえわたしは
やわらかい蔓草のようにそれを捕えて
それを力に立ちがりましょう。


もつともつとやさしくなりましよう
もつともつと美しく
心ききたる女子になりましよう。


ああわたしはあまりにも荒地にそだちました。
飢えた心にせめて一つほしいものは
わたしがあなたによろこばれると
そう考えるよろこびです。
あけがたの露やそよかぜほどにも
あなたにそれが判つて下されば
わたしの瞳はいきいきと若くなりましよう。
うれしさに涙をいつぱいためながら
だまされだまされてゆたかになりましよう。
目かくしの鬼を導くように
ああわたしをやさしい拍手で導いて下さい。


               永瀬清子 詩集「だましてください言葉やさしく」  http://a.r10.to/hBv3CD

だましてください言葉やさしくだましてください言葉やさしく
(2008/05)
永瀬 清子

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黒猫

Author:黒猫
このブログはHPから詩の部分だけをまとめました。

10代の頃からこれらの詩はいつも自分の中にありました。
私の中にとけ込んだ詩人たちんの言葉と私自身のつたないことばだち。

八木重吉の「秋の瞳」序文ではありませんが、このつたない詩を読んでくれたあなた  私を心の友としてください。

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