下さい <高野喜久雄>
この孔に 指を
この口に 口を
あてて下さい
そして あなたを
あなたの無を下さい
無限に
この私
この空ろ
の中へ下さい
もっと もっと下さい
指 ふるわせて下さい
鳴ります
鳴りました ほら
少し
でも もっと
もっと鳴らねば
もう音が
聞こえない
わからない
もう許して
と言える程に
下さい
もっと
もっと下さい
もっと
もっと
もっと
もっと
詩集「二重の行為」より」
大切なことばたち、好きな詩人の詩、 自分のことばたちを綴ります。
どこまでもストイックで求心的な詩。
この厳しさ、この透明感。
なんという 切ない詩であろうか。
わたくしたちも また
淋しい種子 なのである。
あなたの想いは 魚となって
深い水底に横たわる わたしの むくろに
いつの日か 届くのであろうか
あるいは わたしの想いは。
自らを 誰かに読んで欲しい「手紙」にたとえ
しかし一体誰に受け取ってもらえるのかもわからず
あちらこちらを彷徨うその所在なさ。
若かりし私は、最後の1行が理解できなかった。
今の私には すとんと腑に落ちるものがる。
「この世の誰かに宛てた手紙」などではない。
「この世の誰かにわかって欲しい私」でもない。
手紙を読み解くことが出来るのは只一人 この「私」のみ。 他の誰でもないということ。
これが、孤独を真っ正面から見据え、孤独であること、只独りの「わたくし」であることに
とうに覚悟を決めた詩人・高野であることに
若いころの甘っちょろい少女であった私は、思いを至らせることが出来なかったのだろう。
そしてまた 今の私は 独りであること 私という手紙を 誰にも宛てるつもりなどないことを
深く 心に決めたのである。 (2003/秋)
互いが 互いの迷路である という
その せつなさ
所在なさ
●わたしの心の中でも 崖くずれ が・・
●言い知れぬ 裂け目のようなわたし という ことばが鮮烈。